今回は小説の紹介です。ただの小説ではなく、ドラえもんの小説版!
2019年3月に公開した「映画ドラえもん のび太の月面探査記」の脚本を担当した作家の辻村深月さん。実は辻村さん、大のドラえもんファンとのこと。
「ドラえもんファンの作家が書くドラえもんの小説はどんなものだろう?」という興味本位で読んでみることに。
予想以上におもしろく、これはどうしても紹介したい!と思ってしまったので、この記事を書くことにします。
長文&ネタバレになりますので、ご注意ください。
ちなみに僕は、映画の月面探査記は未視聴です。純粋に小説版のみの感想になります。
辻村作品としてもドラえもんとしても成り立っているすごさ
読み始めて数ページで、辻村さんの筆力に圧倒されました。内容はドラえもんなのに、文章は辻村深月。辻村作品を読んでいる実感はあるのに、頭に浮かんでくる映像はドラえもん。辻村作品とドラえもんが両立している不思議な感覚にハマってしまいましたね。
冒頭、廊下に立たされたのび太が「ドラえもーん」と叫んだ瞬間、頭の中で「チャラララララ チャラララララ〜」とオープニング曲が流れました(笑)
あ、もちろん、昔の「あんなこと いいな」の方。最近のドラえもんの映画は、このお決まりの始まり方をしない作品もあったから、とても嬉しかったです(映画版はどんな始まり方をしているのかは知りませんが・・・)。
こういうちょっとしたところでも、辻村さんがドラえもんファンだということがわかりますね。
ジャイアンが頼りになる、しずかちゃんがお風呂に入りたがる、スネ夫が戦いの中に行く前に迷うなど、映画ではお決まりの場面も、辻村さんの文章で丁寧に描写されることで、その映像が頭の中に浮かんできました。
この筆力は、本当にすごいです!
過去作品のオマージュが嬉しい
辻村深月さんは、1980年生まれ。僕と同世代です。おそらく、リアルタイムで観ていたドラえもんの映画も同じなんだと思います。
だから、その時代(旧版)のドラえもん映画のオマージュがとても多いように感じました。個人的に気が付いた部分(そうかな?)と思った部分をご紹介。
出木杉くんがよく喋る
大魔境や魔界大冒険、パラレル西遊記など、映画になると出番が増える出木杉くん。今回も本領発揮です!ルカに積極的に話しかけたり、ルカの不思議さを引き出したりと序盤に活躍しています。
ひみつ道具「ピッカリゴケ」
映画「のび太と竜の騎士」で登場したひみつ道具。地下空洞を明るくして、秘密基地を作るために登場しましたが、今回は、月面世界に明るさと温かさを生み出すために使っています。序盤で登場しますが、これがすでに伏線なんです。
「異説クラブメンバーズバッジ」を外した時の恐ろしさを説くドラえもん
この場面、海底鬼岩城で「テキオー灯」の効果が切れた時の恐ろしさを説明するドラえもんと似ていると思いました。ドラえもんが、真剣に、ちょっと脅かすような雰囲気で話すことで、その恐ろしさをみんなが理解する場面ですね。
まぁ、このセリフがあるということは、誰かがその状態になってしまうことの布石でもあるんですけどね・・・笑
今回は、のび太でしたね。
月面世界でのレース
映画ドラえもんだと、レースをして遊ぶ場面がよく出てくるように感じます。昔の作品だと、「海底鬼岩城」や「竜の騎士」でしょうか?
ただ今回は、「ノビット(のび太が粘土で作ったうさぎ)が作ったカートが逆向きに走る」という伏線を張るための場面だったということに驚きました。
ロボット軍団でジャイアントスネ夫が追い詰められる
これはもちろん、鉄人兵団ですね。倒しても倒しても、次から次へと出てくるロボット。鉄人兵団の時もそうでしたが、今回もかなりの絶望感を味わいました。
しずかちゃんが、仲間の怪我の治療のため待機+ラストシーンで活躍
これも鉄人兵団ですね。リルルを治療するため、鏡の世界の自宅で待機していたしずかちゃんを思い出させます。「お医者さんカバン」が出てくるのも嬉しいですね。
また、しずかちゃんが思いつく「決め手となる一手」も健在!大魔境や鉄人兵団でも、みんなの絶体絶命のピンチを救ったのはしずかちゃんの行動力でした。
戦闘時のひみつ道具はちょっと変わった?
昔のドラえもんは、敵と戦う場面がしっかり描かれていました。アニメ版では観られないバトルシーンが、とてもかっこよく見えたものです。
その時にキャラクターが持つひみつ道具はだいたい同じだったんですが、今回は少し変わっていましたね。
ドラえもん→ヒラリマント
のび太→ショックガン
しずかちゃん→スーパーてぶくろ
ジャイアン→空気砲
スネ夫→瞬間接着銃
のイメージでしたが、今回は
ドラえもん→ヒラリマント
のび太→空気砲
しずかちゃん→参加せず
ジャイアン→瞬間接着銃
スネ夫→瞬間接着銃
のび太の空気砲は意外でした。読んでいて、「のび太が空気砲なの?」と独り言を言ってしまったぐらい(笑)
ただ、最後に空気砲が重要な役割を果たすので、この役をのび太に任せるためにのび太=空気砲だったんだなと納得しました。
最後の敵が頭だけのロボット
海底鬼岩城のポセイドンと同じですね。頭だけのロボットが出てきた時点で、僕の脳内イメージは完全にポセイドンでした(笑)
以上が、現時点で気が付いた部分です。また思い付いたら、増やしていきますね。
伏線回収が気持ちいい
最近の映画ドラえもんは不必要なシーンが多い!と個人的には感じていましたが、今作はそんなことはない!
さすがは辻村深月さん!意味のない(ように感じていた)場面も最後につながり、「だからあの場面があったのか」と気持ちいい伏線回収を見せられました。
モゾの「私の足の速さをご存知ない」という口ぐせ
このセリフが出てきた段階で、「きっとどこかでモゾの足の速さが役に立つんだろう」ぐらいのことは思っていました。ただ、その使い所がすごい!
「ここで来たか」というところでの伏線回収は見事です。
正直な話、ここで僕は泣いてしまいました。タイミングといい、セリフの言わせ方といい、素晴らしかったです。
ピッカリゴケの登場とエーテルの力
ピッカリゴケを出す意味は、ただ単に暗いところを明るく照らすというだけではなく、植物を元気にするエーテルと組み合わせるためだったことが最後でわかります。
実際にカグヤ星に光をもたらしたのは「ピッカリゴケ」に似た植物でしたが、序盤にピッカリゴケを登場させておくことで、読者が「これでカグヤ星が明るくなる」と自分で気付くことができるんだと思います。
ノビットのあべこべの発明
かけると見えなくなるメガネ、逆向きに走るカートなど、あべこべの発明品を作っていたノビット。この「あべこべ」が最後の一手になります。
スペースカートでレースをしていた場面も、このノビットの「あべこべの発明」を印象付ける大事な要素だったんだとわかったとき、「この作品の中に、無駄な場面は一つもないんだなぁ」と実感しました。
千年の間に、異説の存在になっていたエスパル
実現できるのはあくまで長い間信じられてきた『異説』だけなんだ。その場の思いつきや願い事を叶える道具じゃない。ずっと語ってきた人たちがいてこその『異説』なんだよ
というドラえもんのセリフ。これを聞いたあとのルカの表情。「そういうことか!」とラストでわかります。そしてわかったときには、涙が出てしまいました。
感動のラストシーン
最後は、映画ではお決まりの仲間との別れがあります。
友達であり、一緒に戦った仲間であるルカやルナ、モゾたち。「彼らの生活を守るためには、もう会わない方がいい」という相手のことを思っての別れ。日本誕生のククルとの別れに近いかなと感じています。
地球に戻ったのび太たちが「異説クラブメンバーズバッジ」を裏山に埋めて、自分たちの意思で「会えない」ようにした決断にも泣けます。
もう会えないけど、気持ちはつながっているというラスト。
ドラえもんの映画としては定番の終わり方ですが、辻村さんの文章も相まって、とても綺麗なラストシーンでした。
月面探査記の「名言」は?
最後にちょっとおまけ。
ドラえもんの映画の中では、「名言」のようなものが出てくると個人的に思っています。
例えば、鉄人兵団でのドラえもんの「ザンダクロス、信号を止めろ!」や、魔界大冒険でののび太の「頼むぞ、名投手!」など。
月面探査記での名言は、モゾの「私の足の速さをご存知ない」だと勝手に思っています。ただ、モゾが一人で言っている場面ではなく、終盤ディアボロの攻撃をかわした時にみんなで一緒に言った場面。
「ワタクシの足の速さをー」
敵に怯まず、心が折れていないモゾの力強い言葉に、一同から笑みがこぼれる。モゾの口癖のその先を、ドラえもんたち全員がそろって続ける。
「ご存知ない!」
ここです!作中、僕の一番好きな場面でもあり、ここだけ何度も読み返しました。
映画ではどうなっているのかはわかりませんが、素晴らしい名言だと思います。
まとめ
最近読んだ小説の中では、断トツでおもしろかったです。
こどもの頃、ドラえもんが好きだった世代の方たちなら間違いなく楽しめます。読み終わった後は、昔のドラえもん映画を見たくなること必至ですよ。
また、今のドラえもんを見ているこどもたちにもオススメです。辻村さんの文章は柔らかくて読みやすいので、小学生でも読みやすいと思います。映画を観た後なら、多少漢字がわからなくても雰囲気で読めるのではないでしょうか。
親子で読んで、感想を話し合うのもいいですね。
かなり長い記事になりましたが、お付き合いいただきありがとうございました!
それでは
コメント