先日、第168回芥川賞・直木賞の候補作が発表されましたね。
どの作品が受賞するのかいまから楽しみです。
芥川賞は「純文学」
直木賞は「大衆文学」を対象にしていますが、
「純文学ってなに?」「純文学って、難しそう」という方も多いかと思います。
僕も以前はそう思っていましたが、実際読んでみるとおもしろい作品が多いです。
そこで今回は、読みやすい純文学作品について紹介したいと思います。
純文学とは?
純文学とは、小説のジャンルの一つです。主に「芸術性」に重きを置いた文学作品を言います。言葉の選び方や登場人物の内面の描写、文章のリズムなど、文章の芸術性や作品のもつ雰囲気をじっくり味わうことができます。
芥川賞とは?
芥川賞(芥川龍之介賞)は、1935年に芥川龍之介を記念して創設された文学賞のこと。
選考対象は、新人作家または無名作家による純文学の短編~中編作品
つまり芥川賞をチェックしていると、これからどんどん伸びていく作家さんを知るきっかけにもなるんです。
好きな作家さんを見つけて、新作を追っていくのはかなり楽しいですよ。
純文学入門におすすめの作品
ここからは、僕がおすすめする「純文学入門にぴったりの作品」を紹介します。
読みやすさ、とっつきやすさで選んでみたので、気になった作品から読んでみてください。
『推し、燃ゆ』宇佐見りん
第164回芥川賞受賞作で、僕が純文学に興味をもつきっかけになった作品です。
推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。
というインパクトのある冒頭で完全に心を掴まれました。
アイドルを推すこと、そのアイドルの内面を読み取ることに自分の全てを捧げる女子高生あかり。ままならない生活を送りながら、それでも推しを推すことを生活の背骨にして生きる。
アイドル好きでなくても、推しているものがなくても、誰にでもおすすめしたい一冊。あかりの内面や葛藤が描かれる時に、時系列がわからなくなる時がありますが、それすらもあかりの不安定な内面を切り取ったように思える筆力。
言葉の選び方、文章の構成、まさに現代を表現した作品だと思います。
「推し、燃ゆ」に関しては、こちらで詳しく感想を書いています。
『インストール』綿矢りさ
綿矢りささんと言えば、第130回芥川賞受賞作の「蹴りたい背中」が有名ですが、個人的にはデビュー作の「インストール」の方が読みやすい印象を受けます。
受験戦争から脱落し、不登校になった女子高生の野田朝子。ふと思い立って部屋の中の全てのものを捨て始めます。けれど亡くなったおじいちゃんに買ってもらったコンピューターだけが捨てられず、久しぶりに電源を入れてみようとする。そこから物語は展開していくので、話の筋がわかりやすいです。
もちろん主人公の心理描写も巧み。内面を描写しつつ、物語もしっかり進んでいる感があるのが読みやすさの一因かなと思います。
『星の子』今村夏子
今村夏子さんは、個人的にかなり好きな作家さんです。独特で少し闇を含んだ物語を、淡々とした語り口で描いている作品が多いです。その中に見え隠れするユーモアもまたおもしろい。特にこの「星の子」では、読むとわかると思いますが河童のくだりは何度読んでも笑ってしまいます。
「星の子」の主人公は、中学三年生のちひろ。小さい頃は体が弱く、そのことがきっかけになり両親は怪しい新興宗教にのめり込んでいく。当たり前だと思っていたことが、実は周りと違うと気づいていくちひろ。それでも自分は両親を信じたい。その葛藤を、こちらが苦しくなるほど見事に描写しています。
『むらさきのスカートの女』今村夏子
今村夏子さんのもう一つの傑作。こちらは、第161回芥川賞受賞作。令和最初の芥川賞です。
「むらさきのスカートの女」と呼ばれている一人の女性。その女性と友達になりたい「私」は、彼女が同じ職場で働くように誘導し、少しずつ接触を図るようになります。淡々と描かれているけれど、よく考えると「?」がたくさんの登場人物。
読み終わった後に「これは一体誰の物語だったのか?」と不思議な感覚に陥ります。
文章も読みやすく、ページ数も少ないので、さらっと読める一冊です。
『コンビニ人間』村田沙耶香
第155回芥川賞受賞作。コンビニの店員として生きている時のみ自分の存在価値を実感できる、そんな主人公を描いている作品。「普通」とは何なのか、誰にとっての「普通」なのか。主人公の内面にしっかり踏み込んでいるからこそ、「そういう考えの人も確かにいるよな」と思えてしまう。けど、実際にいたらやっぱりちょっと変わってるよね、と思ってしまうような。そんな人物を見事に描ききっている村田さんは本当にすごいと思います。
『我が友、スミス』石田夏穂
今回紹介している中では、一番新しい作品。第166回芥川賞の候補作です。残念ながら受賞はできませんでしたが、面白くて読みやすいので純文学初心者の方にはおすすめです。
テーマは「筋トレ」。タイトルの「スミス」というは、筋トレに使用する「スミスマシン」のこと。もうこれだけで面白そうな雰囲気が出ていると思います。
主人公のU野は、通っていたジムの先輩O島からボディビル大会への出場を勧められます。筋トレをする中で自分を見つめ直し、自分の生き方を探していく様子が描かれています。
U野が大真面目に筋トレをしているからこその、ちょっとしたユーモアが面白い作品です。
「我が友、スミス」に関しては、こちらで詳しく感想を書いています。
『博士の愛した数式』小川洋子
この作品を「純文学」として紹介するのは、かなり迷いました。少しファンタジー要素もあるように思うからです。
それでも、作者の小川洋子さんは芥川賞の受賞歴もあることと、今回の「読みやすい」というテーマにはピッタリなので、紹介させてもらいます。
記憶が80分しかもたない「博士」と、そこに派遣された「家政婦」、家政婦の息子「ルート」と心の交流を描いた作品です。温かい文章でストーリーもわかりやすいので、ほっとしたい時にピッタリの一冊です。
まとめ
以上が「これから純文学を読んでみようかな」という時におすすめの7冊です。特に純文学は、主人公の内面が深く描かれるぶん、感情移入できなかったり、共感できなかったり、あとは文章が肌に合わなかったりする場合があると思います。
そんな時は、思い切って違う作品を読むことをおすすめします。読むのが辛くなると読書自体が長続きしないので、気楽に構えずに読み始めてみるのをおすすめします。
「どんな感じか、ちょっと読んでみたい」という方には、図書館の利用がおすすめです。
図書館で借りて気に入ったら、本屋さんで買えばいいので気軽に読み始められますよ。
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